冬から春へ〜MATSURIKAという法人を育てていくために〜

真っ白で心洗われるような雪景色。
岡山県北に位置する真庭市では、今年は特に雪がよく降ります。

もうすぐこの工房を立ち上げて3年。
最近いろいろなことがあって、この工房を建てた頃をよく思い出す。

東京都の養護教諭を辞めて、5歳になる息子を連れて岡山県真庭市に母子移住したこと。
真庭市の地域おこし協力隊の3年の任期を経て、法人を立ち上げて工房を建てたこと。

役員になってくれた友人と共に、化粧品製造業の許認可取得や商品開発に明け暮れたこと。
そして、工房ができてホームページの準備を整えてようやく石けんの販売をスタートしたこと。

苦労して石けんを作り上げてオンラインショップをオープンしても、ネットという大海原の中で、小さなボートに石けん屋の旗を立てただけの状態で、見つけてもらうだけでも大変なことでした。

しかも子育てママ同士でやっているので、子どものことで仕事最優先になれないのは日常茶飯事。
最初は製造の効率も悪く、少ない人数でやることが多い割に売上げが伸びなくてしんどい時期でした。

それから、少しずつ支えてくださるお客様が増えて、作る量も増えてきて昨年からようやく新しい仲間を迎えました。

3人ってすごい。
2人に石けんの作業を任せて、私自身がやれることがぐんと増えました。

ところがしばらくすると今度は二人でやっていた頃に曖昧だった部分が浮き彫りになってきて、今度は組織としてのルールを決めていかなくてはなりませんでした。

会社として「変化」は必要なことだけど、今までと変わると言うことは誰しもストレスでもあります。
ちょうど昨年の秋頃からその過渡期に入り、衝突したり、悲しんだり、いろいろなことがありました。

そんな中で、さらに新しいスタッフが入り、皆で協力して冬季限定の日本みつ蜂レモンという本当にいい石けんが出来上がりました。
地元真庭の日本みつ蜂のはちみつのやさしく甘い香りと、深く美しい色合い。
鼻に抜けるレモンとひのきの清々しい香りに癒されます。

クリエイターとしての私だけではなく、システムを整え商品の魅力を言語化して伝えて売っていく経営者の私がいて、そしてスタッフが気持ちよく働くためにはマネージメント能力も必要なことにようやく気づく。

人に仕事を任せるって本当に難しい。
信頼して仕事を任せつつもリスクはすべて私が引き受けなければならない。
その判断がいつも迷うところで、まだまだ自分は経営者として未熟だなぁと痛感する。

そしてある時から、ふとMATSURIKAという「法人」は私とは別人格ということに気づいた。
今までそこを曖昧にしていたから不具合が生じた。

私個人だけならまあいいかなと思うことでも、別人格のMATSURIKAが否と言えば皆にそれを伝えなくてはならない。
最近は、立ち止まって考える時、頭の中でいつも2つの人格がせめぎ合う。
だから法人は「人」って書くんだーと目からウロコでした。

「よし、変わろう」
と決断したら即行動に移す。
会社の立ちあげ当初から曖昧になっていた社内のシステムを皆が分かりやすく働きやすいように変えていく。
クラウドのタイムカードを取り入れて、スタッフがスマホからスケジュールやタスクを共有できるようにする。
出勤日でない日でも現場の状況や在庫は刻々と変わるのでチームとして動くためには地図を共有する必要があるのです。

デジタルで見える化して効率化しつつ、丁寧に石けんを手作りしたり、手書きのお手紙をお客様ひとりひとりにしたためるなど、アナログの部分も引き続き大切にしていく。

そして一番頭を悩ませたのが、スタッフが全員子育て中の女性という職場で、子どもの発熱などによる突然の欠勤でした。
少人数の職場で一人が休むと、他のスタッフや私への負担がどうしても大きくなってしまいます。

これまでは、スタッフの欠勤分は経営者の私がなんとかしなくてはと思い、スケジュールがずれて作った石けんを切りに休日出勤したりしていたのですが、こうした自己犠牲は長続きせず、会社的にも良くないのでやめることにしました。
勤務の振替などシフトに柔軟性を持たせて、手当をつけるなど、仕組みをひとつひとつ整えることで解決しつつあります。

そして3年以上続けていた、スタッフ達に私が毎日作っていたまかないを週1回に減らしました。
一番仕事を抱えている私が毎日スタッフに昼食を用意することがいかに非生産的であるかは、頭ではずっと分かってはいたのですが、もともと人にご飯を作り喜んでもらうのが大好きな私がこれを決断するのは本当につらかった。

まかない作りをやめることも、大局で見たらめぐりめぐってスタッフ達のためになる。
私自身がきちんと仕事だけに集中して経営者になるためにはどうしても必要なことだったのです。

3年前、売上げも立たなかった時期に夢をずっと語りながら石けんの試作を続けていたあの頃とは違う。
もう次のフェーズに入っているんだ。
経営者とスタッフ達との間にきっちり線が引かれたことにより、馴れ合いも友達関係もなくなったけど、会社としてはずっと良くなっているし売上げも伸びてきている。

以前と比べると寂しさもあるけれど、その感情と反比例するように、昔より何倍ものお客様に私たちの想いが込められた石けんを届けることができているし、職場のスタッフ達の雰囲気もいい。
変化には痛みが伴ったけど、これで本当に良かったのだと思うのです。

スタッフはそれぞれ得意なこと不得意なことがあるけど、人は多面体なのだからいいところが発揮できたらそれでいい。
彼女たちが持つ能力を発揮していきいきと働けて、私ももっと仕事と子育てを両立できるような会社にしていきたい。

仕事の生産性を上げつつ、定期的なミーティングを設け、これからはスタッフにもどんどん商品開発にも関わってもらってもらう。
まだま未熟な経営者だけど、古い殻を脱ぎ捨てるように大きく変わっていこうと思う。

落ち込むことも寂しさを抱えることもしょっちゅうだけど、顔を上げて前を見据えて、どんな時もお客様にやさしい石けんを届けたいという想いを胸にMATSURIKAと支えてくれるスタッフと共に一歩ずつ歩んでいきたいと思うのです。

ちょうど季節は立春。
節分の日にスタッフの一人がケーキを差し入れしてくれたので、休憩時間に私がコーヒーを淹れて皆でじゃんけんでケーキの争奪戦をして大盛り上がり。

冬の厳しい寒さから、ようやく木の芽がふくらみはじめたような、小さな春の訪れですが、新しい風が吹き込んでくるのを感じます。
「これからもっと楽しくなりそうだね!」
と今日もスタッフと声を掛け合うのです。

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