ローズ石けん開発秘話②〜「さ姫」の香りを求めて〜

前回の記事(→☆)で投稿した、奥出雲薔薇園への訪問後は、しばらくはずっと頭の中での構想の日々でした。

MATSURIKAの石けんの香りづけには植物を蒸留して得られる精油が必須なのですが、薔薇園からいただいたカタログに精油は掲載されていないのです。

奥出雲の希少な無農薬のバラ「さ姫」の精油(エッセンシャルオイル)は、バラの花びら10kgに対してわずか1mlしかとれないので、ほとんど流通しておらずオーダーメイドでしか受け付けていないとのこと。
量・価格の両面からあまりにも貴重すぎて使用できない・・・。

でも奥出雲薔薇園の福間社長は、「さ姫」と違う香りでは納得していただけない。

さて、どうしたものか・・・と、とりあえず試作用にローズウォーターやローズパウダーやエキスを取り寄せて、試作の日々。
製造担当のmiyukiちゃんと、ローズに似た香りの精油をいろいろ掛け合わせて、それぞれのパターンで試作をしてみたりしました。
これが最初の頃に作ったローズ石けん各種。

ゼラニウムをベースに色っぽい香りを出すために、イランイランをほんの少し足してみたり、あれこれ香りの配分を変えてみたのですが、どれも香りがピンと来ない・・・。
色柄も可愛いけどイマイチ「さ姫」のイメージと違う。

ということで、今度は色の研究に入ります。

さ姫のローズエキス、ローズパウダー、そしてローズクレイやレッドクレイをブレンドしながら様々な色を作るのは楽しい作業ですが、しっかり微量の計量をしていかないと二度と同じ色が再現できなかったりするので慎重に行います。

石けんのデザインもあれこれ試行錯誤。

miyukiちゃんとあれこれ考えて、こんなハートを入れ込んだようなデザインも作ってみました。
でも、これはカットする場所によってぜんぜん違う柄が出てしまったり、模様つけに失敗することも・・・。

趣味で、少量作る石けんならデザイン石けんも楽しくていいのですが、私たちが一度に仕込む石けんの量は6キロ以上・・・。
ほとんどがオーガニックの原材料で、ましてや「さ姫」の高価な原材料も使用しているので、一度に仕込む原材料原価だけでも数万円・・・絶対に失敗があってはならないのです。

よって、このデザイン案も却下になりました。

このような試作を繰り返すのをつい最近まで行っていました。
最終的に悩んだのはやはり香り。
夏休みで息子が関東の祖父母の家に行ってくれたので、工房泊まり込みで香りの研究をしていました。

奥出雲薔薇園からいただいた「さ姫」の香りの分析データを元に、ゲラニオールやシトロネロールとか同じ芳香成分を持つ精油を微量に加えたり、逆に分析データだけにとらわれずに、自分が近いと思う香りを直感で加えてみたり、そうして香りをブレンドしていく作業は私にとって大変ながらもワクワクする作業です。
アロマは養護教諭時代からずっと親しんできたのですが、アロマテラピーインストラクター(AEAJ)の資格を取得する際に香りの化学の勉強をしておいて良かった〜!

もともと学生時代はいつも白衣で、こうして寝食も忘れて研究や開発に没頭しているのが好きで、いわゆるオタク気質なんですよね(^^;;
なんでも深く突き詰める性格で、自分でもこだわりが強すぎて疲れてしまう時があるのですが、そんなある日パートナーのmiyukiちゃんが、
「彩ちゃんいいんだよ!だからこそMATSURIKAの石けんができたんだよ。オタクは世界を救うんだよ!」
と言ってくれた時には大爆笑しました。

自然素材と化学と数学、そしてアートが合わさった石けん作りは私にとって大好きな世界。

人に何かプレゼントする時に、趣味が合わない物だったりすると相手の負担になることがありますが、石けんが「消えてなくなる」というのも、相手への負担にならなくて私が石けんを好む理由のひとつです。

石けんは私にとって、香りとやさしい泡で人を癒やす、いわば「消えるアート」なのです。

この石けん2種も色と香りがかなり良くなってきたのですが今一歩及ばず・・・。
製品になった際は使用するかどうか分からない、高価なオイルや植物エキスや精油などの素材を取り寄せての試作なので、開発って本当にお金と時間がかかります(涙)。

こうして試作を繰り返していた矢先に、奥出雲薔薇園の福間社長から連絡があり、なんと島根から出雲街道を通る際にうちの工房にいらしてくださると!
まだ試作用の材料を取り寄せただけで、長年のお取引をしている訳でもないのになんてありがたい!!
これは福間社長がいらした時に納得していただける香りを作り上げようと試作にも熱が入り、最終的にできあがったのがこちらの石けん。

美しく華やかさがありながらも品がある「さ姫」をローズクレイの色合いでイメージしてみました。
オイルもオーガニックオイルをふんだんに使用し、しっとり潤う贅沢な使用感です。
そして一番ドキドキなのが香り!
一般的なバラの香りとはぜんぜん違う「さ姫」の甘く奥深い香りを再現できたかな?

そして、いよいよ奥出雲薔薇園から福間社長が来訪する当日。
「車で2時間ちょっとで着いたよ」と朝9時過ぎにいらした福間社長。

どうして、こんな小さな工房にわざわざいらしてくださったのかお聞きしたら、ちょうど近くを通るからということもあったそうなのですが、実は私が以前薔薇園を訪問した際に差し上げた「ヤマブドウ石けん」を香りも使用感も良いととても気に入ってくださって、特にアトピーのお孫さんがフルーティーな香りとしっとりの使い心地で肌の調子も良く大のお気に入りだそうで、この石けんを作っている工房に興味を持ってくださったそうです。

そしてローズ石けんの試作の香りを嗅いでいただく時は、それはもう緊張しました。

福間社長は、今まで試作したすべての石けんの香りを確認し、そして最終的にこの最後にできあがった石けんの香りを嗅いだ時に

「すごい、さ姫の香りがする!」

と開口一番おっしゃってくださいました。
そしてこのローズの石けんの名称に「奥出雲ローズ」と名付けるのもこれなら大丈夫と許可してくださいました。

「さ姫」の生みの親である福間社長からそう言っていただいて、もう飛びあがってバンザイしたいくらい嬉しかったです。

思えば、このローズ石けんの試作ができあがる頃に奥出雲薔薇園の社長が来訪されるなんて、まるで神様のはからいのよう絶妙なタイミングでした。

聞けば、今まで大手香料メーカーが「さ姫」の香りを合成香料で作りたいと、徹底的に成分を分析して香りを作ってきたことがあったそうですが、ぜんぜん別物の香りだったそうで、社長は「さ姫」の香りとは認めなかったそうです。

「さ姫」の香りにはどうしても解明できないあと20種類以上の香りの成分があるそうです。
でも、神様の領域の香りなのに、そんなの解明できなくてもいいんだよと福間社長はおっしゃっていました。

本当にそう思う。
私も、成分分析結果にも頼りましたが、最終的にはピンときた直感で香りを決めました。
合成香料でこの香りが作れるわけがない。
私がたまたま香りの調合がうまくいったのは、さ姫のローズウォーターはじめ、上質の天然精油を各種使用したから。
自然の香りは自然のものからしか作れない。

石けんに「さ姫」の芳香蒸留水で濃厚な香りのローズウォーターを贅沢に限界まで入れこみ、精油も海外産のローズの精油をわずかですが使用して最終的に仕上げたことをお話ししたら、

「それなら、さ姫の精油、少量からMATSURIKAさんのために卸すよ」
と言ってくださってこれまた感激。

正式に製品版として皆さんのもとにお届けするローズ石けんは、海外のローズ精油ではなく「さ姫」の精油も少量ですが使わせていただいて、今より更に「さ姫」に近づいた香りになりそうです。

そして嬉しいことに福間社長からのお土産で、奥出雲薔薇園で「さ姫」の原種となっているハマナス花の実、ローズヒップを
「これも石けんに使って」
といただきました。

食べてみたら、海外のローズヒップみたいに酸味が強くなくて、甘みがあって上品で美味しい!
ハマナスも奥出雲薔薇園を先日訪れた際に鮮やかなピンクの花を咲かせていました。

さ姫の原種にもなっている、ハマナスの英語名は「Japanese Rose」(日本のバラ)。
古来から伝わる日本のバラから作ったローズヒップはとても貴重なもの。
もちろんこちらも、さ姫と同じく無農薬です。

オレンジ色の実がローズヒップ。
オイルに浸けこんでも実を砕いて入れてもきれいな色が出ると思います。
ローズ石けんの発売まで、最終仕上げがどんどん楽しみになってきました。

工房を後にする前に、福間社長が
「普通は化粧品材料としては原料卸屋さんに卸すことが多いんだけど、化粧品製造業でこうして生産者と製造業者が結びつくパターンはとても珍しいよ。MATSURIKAさんの石けんにはすべてストーリーがあるね。」
とおっしゃってくださいました。

今まで開発してきた石けん、クロモジもヤマブドウもラベンダーも然り、都会ではなく、中山間地域にある工房だからこそ、こうして生産者さんと繋がってその思いを汲みながら作ることができるのが、この場所の強み。

これからも、この地域の自然の豊かさを美しい「石けん」にして皆さんにお届けしたいと思います。
奥出雲ローズ石けんの販売サイトはこちら→☆

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ローズ石けん開発秘話①〜奥出雲薔薇園を訪ねて〜

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